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松山地方裁判所 平成5年(ワ)389号 判決 1996年3月29日

愛媛県伊予三島市寒川町四二二七番地

原告

青木常雄

愛媛県伊予三島市寒川町四二二七番地

原告

株式会社 トキワ工業

右代表者代表取締役

青木常雄

右原告両名訴訟代理人弁護士

高橋早百合

右輔佐人弁理士

中澤健二

高知市縄手町四八番地

被告

大三 株式会社

右代表者代表取締役

合田耕三

右訴訟代理人弁護士

小松英雄

右輔佐人弁理士

辻本一義

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  原告らの請求

一  被告は、別紙第一物件目録及び同第二物件目録記載の各物件を製造し、又は販売してはならない。

二  被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項記載の各物件を廃棄せよ。

三  被告は原告青木に対し、金七〇〇万円及びこれに対する平成七年一二月二〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は原告トキワ工業に対し、金四二〇〇万円及びこれに対する平成七年一二月二〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、茶パックについての実用新案権者である原告青木、及び同専用実施権者である原告トキワ工業が、別紙第一物件目録及び同第二物件目録記載の紅茶パック・お茶パック・だしパック・薬草バックを製造・販売する被告に対し、右実用新案権又は同専用実施権に基づき、右紅茶パック等の製造・販売差止及び損害賠償等を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  本件実用新案権等

(一) 原告青木は、次の(1)記載の実用新案権(以下、この実用新案権を「本件実用新案権」といい、本件実用新案権に係る考案を「本件考案」という。)を有する者であり、原告トキワ工業は、右の実用新案権について、次の(2)記載の専用実施権(以下「本件専用実施権」という。)を有する者である。

(1) 実用新案権

登録番号 実用新案登録第一八九〇三一三号

考案の名称 茶パック

出願日 昭和五八年三月八日(実願昭五八-三三八九九号)

公開日 昭和五九年九月一七日(実開昭五九-一三八五六八号)

出願公告日 平成二年三月二〇日(実公平二-一一三三〇号)

登録年月日 平成四年三月九日

(2) 専用実施権

受付年月日 平成四年一二月一一日

登録年月日 平成五年二月二二日

原因 平成四年三月九日契約

範囲 地域 日本全国

期間 本件実用新案権の存続期間満了まで

内容 製造ならびに販売

(二) 本件考案の実用新案登録請求の範囲は、別紙実用新案公報の実用新案登録請求の範囲記載のとおりである。

(三) 本件考案の構成は、以下の各構成要件に分説される。

(1) 耐溶性と浸出性とを有する方形薄片1の一辺を裏面側に折り畳んで折り畳み部イを、相対する一辺を表面側に折り畳んで折り畳み部ロを設けてあること。

(2) 各々の折り線ハ、ニが同一線上で上端縁と重なるように、前記折り畳み部イを外側に、また、折り畳み部ロが内側となるように該薄片1を二つ折りにしてあること(一方を裏薄片Aとし、他方を表薄片Bとする)。

(3) 前記両薄片A、Bの両側端を融着3、3して上方に開口部2を有する有底袋体が形成されていること。

(4) 前記袋体の薄片B側の上方左右隅角部C、Dを前記薄片B側の表面の内方に向って三角形状に折り重ねて前記開口部2を狭窄させた後、前記薄片Aの折り畳み部イを前記薄片B側に折り返して該開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被したこと。

(5) 茶パックであること。

(四) 本件考案は以上の構成を有するため、次のような作用効果を有する。

(1) 人数に応じて開口部から袋内に茶の使用量の入れ加減を任意に行うことが容易にできる。

(2) 袋内の内容物が内部の膨張によって隙間から流出したりする虞れがない。

(3) 袋体が熱湯内に沈降してエキスの浸出を無駄なく行い得る。

2  イ号・ロ号物件

(一) 被告は、別紙第一物件目録記載の紅茶パック(以下「イ号物件」という。)、及び同第二物件目録記載のお茶パック・だしパック・薬草パック(以下「ロ号物件」という。)を業として製造し、販売している。

(二) イ号・ロ号物件の構成は、次のとおりである。

(1) イ号物件

<1> 全体が耐溶性と浸出性とを有する不織布の薄片で構成されていること。

<2> 長方形の薄片1は、折り線2に沿って二つ折りされていること。

<3> 薄片1は、短辺の一端が折り線4に沿って背面側に折り畳まれて、重畳部3が形成されていること。

<4> 薄片1は、その短辺の他端が折り線6に沿って内側に折り畳まれて、重畳部5が形成されていること。

<5> 折り線4、6は同一線上で重なり、それらは上端縁となっていること。

<6> 両側端において、端縁部より内側に寄せて形成した融着部7、8によって薄片1の重ね合わせ部分が融着され、背面側の薄片Aと正面側の薄片Bとによって開口部Eを有する袋体を構成し、その袋体は、上方の左右に隅角部C、Dを有していること。

<7> 糸11が重畳部3と薄片Aとの間に案内され、先端が融着部8に固定されていること。

<8> 紅茶パックであること。

(2) ロ号物件

<1> イ号物件の構成<1>と同じ。

<2> イ号物件の構成<2>と同じ。

<3> イ号物件の構成<3>と同じ。

<4> イ号物件の構成<4>と同じ。

<5> イ号物件の構成<5>と同じ。

<6> イ号物件の構成<6>と同じ。

<7> お茶パック・だしパック又は薬草パックであること。

3  イ号・ロ号物件の構成と本件考案の構成要件との対比

(一) イ号・ロ号物件の構成<1><3><4>は、本件考案の構成要件(1)を充足する。

(二) イ号・ロ号物件の構成<2><5>は、本件考案の構成要件(2)を充足する。

(三) イ号・ロ号物件の構成<6>は、本件考案の構成要件(3)を充足する。

二  争点

1  直接侵害について

(一) 構成要件(4)の解釈、本件考案の技術的範囲について

(1) 原告らの主張

本件考案の構成要件(4)の内容は、本件考案の最終構造を実現するための方法的記載から成り立っているところ、実用新案による保護の対象は、物品の形状・構造・組合せである以上、経時的な操作である方法は、そもそも考案の構成要素とはなりえない。本件考案の構成要件(4)も、それを方法そのものとして解釈することは許されず、もっぱら形状又は構造として解釈される必要がある。

以上により、本件考案の技術的範囲は、構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体であって、使用する際に、隅角部C、Dが薄片B側に三角形状に折り重なって開口部2を狭窄していると共に、形成された三角形状が薄片B側に折り返された折り畳み部によって包被されている構造を採択しうるように、全体が構成されている茶パックと解すべきである。すなわち、本件考案の構成要件(4)の「包被した」とは、「包被すべく構成した」の意味であり、「包被することが可能な構造である。」という趣旨である。

このことは、別紙実用新案公報の明細書中に本件考案の実施例として、第1図ないし第3図が記載されていること、すなわち、構成要件(4)に記載された閉塞方法が施されていない茶パックが、本件考案の実施例として示されていることからも明らかである。

なお、被告は本件考案の出願経過を主張するが、原告青木が本件考案の出願過程において、構成要件(4)を新たに主張した趣旨は、本件考案が構成要件(4)の構成を「取りうること」、及びその取りうることにより、本件考案が、「操作が簡単で手間がかからず、密閉した袋体として内容物の流出もなく容易に使用しうる」独自の作用効果を有することを、本件考案の進歩性として主張したに過ぎず、構成要件(4)の持つ意義もこれを前提に考察すべきである。

(2) 被告の主張

原告青木は、本件実用新案の出願に際し、当初はその登録請求の範囲を構成要件(4)のない形で出願し、登録を拒絶された。原告青木は、その後の拒絶査定不服審判手続において、実用新案登録請求の範囲に構成要件(4)を付加して、本件考案の技術的範囲を狭く補正し、かつ、構成要件(4)による独自の作用効果を強調した結果、本件実用新案の登録が認められたのである。

したがって、構成要件(4)は本件考案にとって欠くことのできない重要な要素であって、構成要件(4)は構成要件(1)ないし(3)で特定された有底袋体を方法的記載によって限定するものと解すべきであり、本件考案の技術的範囲は、構成要件(1)ないし(3)で特定される有底袋体であって、構成要件(4)の閉塞方法をもって開口部が閉塞される茶パックと解するのが相当である。

(二) イ号・ロ号物件が本件考案を侵害するか否か。

(1) 原告らの主張

本件考案の技術的範囲は、構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体であって、使用する際に、隅角部C、Dが薄片B側に三角形状に折り重なって開口部2を狭窄していると共に、形成された三角形状が薄片B側に折り返された折り畳み部によって包被されている構造を採択しうるように、全体が構成されている茶パックと解すべきである。すなわち、

<1> 本件考案の技術的範囲については、前記(一)(1)のように解釈すべきところ、イ号・ロ号物件は、構成要件(4)の閉塞方法によって、三角形状隅角部C、Dを包被すべく構成された茶パックであるから、本件考案を侵害する。

<2> 本件考案の技術的範囲について、前記(一)(1)のように解釈できないとしても、やはりイ号・ロ号物件は本件考案を侵害する。すなわち、

イ号・ロ号物件は、その融着部7、8が端縁から相当の余裕をもって薄片1の両側端に形成されているので、融着部7と8との間隔が薄片1の幅よりも相当狭く、かつ隅角部C、Dが直角である。そのような構造であるため、イ号・ロ号物件は、重畳部3を薄片B側に折り返すと、上方左右隅角部C、Dは、必然的に薄片B側の表面内方に向かって三角形状に折り重ねられ、開口部Eが狭窄される。イ号・ロ号物件のパッケッージ(甲八ないし一一の各1・2)の「できあがり状態」の図面にも、点線で三角形状の隅角部C、Dが記載されており、この三角形状は開口部Eが狭窄されている状態を示している。したがって、イ号・ロ号物件は、構成要件(4)の閉塞方法によって開口部を閉塞する茶パックであることが明らかであり、構成要件(4)を充足しており、本件考案を侵害するものである。

乙第一四号証の四枚目と五枚目の写真の間には、上方左右隅角部C、Dが三角形状に折り重ねられ、開口部Eが狭窄されている写真がないが、重畳部3を薄片B側に折り返すと、隅角部C、Dは必ず三角形状になり、当該開口部は狭窄される。乙第一四号証の五枚目の写真は、形成された三角形状隅角部を指で整えた後の状態を撮影したものである。一度侵害品が作られた後になって、不都合な部分を故意に改変したとしても、侵害品が作られたことに変わりはない。

<3> なお、構成要件(5)の「茶パック」は、明細書に「この考案は、茶、紅茶、その他粉末等を軽便に袋入れして使用する茶パックに関する」と記載されていることからも明らかなように、紅茶パック、だしパック、薬草パックを当然含むものである。したがって、紅茶パックであるイ号物件、だしパック、薬草パックであるロ号物件のいずれも、構成要件(5)の「茶パック」の要件を充足する。

(2) 被告の主張

<1> 前記(一)(2)で述べたように、本件考案の技術的範囲は、構成要件(1)ないし(3)で特定される有底袋体であって、構成要件(4)の閉塞方法をもって開口部が閉塞される茶パックである。しかるに、イ号・ロ号物件は、上方左右隅角部C、Dを薄片B側の表面の内方に向かって三角形状に折り重ねる操作を行わないので、本件考案の構成要件(4)前段の要件を充足せず、本件考案を侵害しない。

<2> 原告は、実用新案制度は方法を含まないから、構成要件(4)の方法・手順は、本件考案の技術的範囲を解釈する際には、考慮することは許されない旨主張する。

しかし、原告は、本件考案の出願手続においては、開口部の閉塞後の構造を特定する重要な事項として、構成要件(4)を実用新案登録請求の範囲に含めているのであり、原告は、出願手続の際には、開口部の閉塞後の構造を特定する重要な事項として実用新案登録請求の範囲に含めた事項を、技術的範囲を解釈する際には、考慮することは許されないと主張しているのであって、かかる一貫性のない矛盾した主張は許されない。

特許庁における一連の出願手続においては、構成要件(4)は、実用新案の対象となる構造に関する事項であると認められたのであり、この経過からしても、本件考案の技術的範囲を解釈する際には、構成要件(4)を考慮することは許されないと主張するのは相当でない。

<3> 構成要件(5)の「茶パック」には、ロ号物件中のだしパック、薬草パックは含まれない。

2  間接侵害について

(一) 原告らの主張

仮に、原告らの前記1の(一)(二)の各(1)の主張が認められず、イ号・ロ号物件が本件考案を直接侵害するものでないとしても、イ号・ロ号物件の製造・販売行為は、本件考案に係る物品の製造にのみ使用する物を業として製造し、販売するものであるから、本件考案を間接侵害(実用新案法二八条)するものである。すなわち、

(1) 一般消費者は、イ号・ロ号物件を購入した後、以下の操作を行ってイ号・ロ号物件を使用する。

(a) イ号・ロ号物件が多数パッケージされた商品を購入した後、パッケージを破り、イ号・ロ号物件を取り出す。

(b) 袋体の開口部Eから必要な紅茶・お茶・だし・薬草の粉末を入れる。

(c) イ号・ロ号物件の上方左右隅角部C、Dを薄片B側の表面内方に向かって三角形状に折り重ねて、右開口部Eを塞ぐ。

(d) 重畳部3を薄片B側に折り返す。

(e) 折り返したことにより、開口部Eと前記(c)で形成された三角形状隅角部が包被される。

(2) このように、イ号・ロ号物件が一般消費者に購入されて使用される際には、一般消費者によって構成要件(4)の操作が行われて、本件考案の侵害品が製造される。このことは、イ号・ロ号物件の各構造から明らかである。

すなわち、イ号・ロ号物件は、融着部7、8が端縁から相当の余裕をもって薄片1の両側端に形成されており、融着部7と8との間隔が薄片1の幅よりも相当狭く、かつ隅角部C、Dが直角である。したがって、一般消費者が、イ号・ロ号物件のパッケージに記載された使用方法に従い、左右の親指を同時に重畳部3の下に挿入し、右重畳部3を薄片B側に折り返す操作(前記(1)(d)の操作)をしようとすると、それは必然的に左右の人さし指を上方左右隅角部C、Dにあてがう動作を伴うことになり、かつ人さし指と親指との間には隅角部C、Dが存在するため、重畳部3の折り返しの際には、当然上方左右隅角部C、Dは下方に折り曲げられることになって、右隅角部C、Dは必然的に、薄片B側の表面内方に向かって三角形状に折り重ねられる(前記(1)(c)の操作がされる)からである。そして、一般消費者は、イ号・ロ号物件をその他の実用的な用途に用いることはできない。

(3) 仮に、一般消費者がイ号・ロ号物件について、前記(1)(c)の操作を行わなかったとしても、構成要件(4)は方法的記載を含んでおり、かつ、実用新案において考案の技術的範囲を定めるに際しては、方法的記載そのものは一切考慮されない。したがって、一般消費者が構成要件(4)と異なる手順によりイ号・ロ号物件を使用するとしても、最終的に本件考案の茶パックと同一構造の茶パックが製造されるならば、イ号・ロ号物件は本件考案の技術的範囲に含まれる。

そして、一般消費者が、イ号・ロ号物件のパッケージに記載された使用方法に従い、重畳部3を薄片B側に折り返す操作(前記(1)(d)の操作)をすると、必然的にイ号・ロ号物件の上方左右隅角部C、Dは三角形状に折り重ねられるので、この場合でも、イ号・ロ号物件は構成要件(4)前段の要件を充足する。

(4) したがって、被告は、一般消費者が本件考案に係る茶パックを製造するに際し、その製造にのみ使用する物を業として製造・販売するものであり、間接侵害が成立する。

(二) 被告の主張

(1) イ号・ロ号物件は、上方左右隅角部C、Dを薄片B側の表面内方に向かって三角形状に折り重ねる操作はせず、単に重畳部3を薄片B側に折り返す操作のみで開口部Eを包被するものである。

(2) 仮に、一般消費者がイ号・ロ号物件を使用する際、上方左右隅角部C、Dを三角形状に折り重ねる操作をしたとしても、その折り重ね方向が「薄片B側の表面の内方に向かって」(構成要件(4)前段と同一方向)いるとは限らず、「薄片A側の表面の内方に向かって」(構成要件(4)前段と反対方向)折り重ねられることもある。

(3) したがって、イ号・ロ号物件は、本件考案に係る茶パックの製造にのみ使用するものではないから、被告がイ号・ロ号物件を製造・販売する行為は、本件考案に対する間接侵害をも構成しない。

3  原告ら主張の損害の有無

仮に、イ号・ロ号物件の製造・販売行為が、本件考案の直接侵害(前記1)又は間接侵害(前記2)に当たるとすると、次に、原告ら主張の損害(平成二年四月から平成七年一一月までの損害賠償金として、原告青木について三五七八万〇一〇〇円、原告トキワ工業について四七七〇万七二〇〇円、本訴はその一部請求。)の有無が問題となる。

第三  当裁判所の判断

一  直接侵害について

1  実用新案における方法的記載について

(一) 本件考案の構成要件(4)の内容は、「前記袋体の薄片B側の上方左右隅角部C、Dを前記薄片B側の表面の内方に向かって三角形状に折り重ねて前記開口部2を狭窄させた後、前記薄片Aの折り畳み部イを前記薄片B側に折り返して該開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被した」であり、方法的な記載を包含している。

(二) ところで、実用新案法における考案は、物品の形状、構造又は組合せにかかる考案をいうのであり(実用新案法一条、三条参照)、製造方法や使用方法は考案の構成たりえないものであるから、考案の技術的範囲は物品の形状等において判定すべきものであり、係争物件が係争考案の技術的範囲に属する否かの判断に当たっては、製造方法や使用方法の相違を考慮の中に入れることは、原則として許されないものと解されている(最高裁昭和五六年六月三〇日判決・民集三五巻四号八四八頁参照)。

そして、製造方法等の記載は、その方法を実施した結果得られる特定の形態を、方法の表現をかりて間接的に表現したものであり、物品の形状・構造等の特定、説明としての意味を有するものと解すべき場合が多い、といわれている。

(三) そこで、以上のような問題点も考慮に入れた上で、方法的な記載を包含する構成要件(4)の解釈、本件考案の技術的範囲について、以下考察する。

2  構成要件(4)の解釈、本件考案の技術的範囲について

(一) 明細書の記載

本件考案について、明細書及び図面(甲一)には、次のとおり記載されている。

(1) 本件考案は、「不織布等の如き薄片にて袋体を形成し、該袋体の開口部に人数に応じて茶類を入れてその入れ加減もできると共に、カバー片で開口部を閉塞すべくカバーし、茶袋として外観、体裁等も優れ、使用が簡単な茶パックを提供」(明細書の2欄12行ないし16行)することを技術的課題とするものである。

(2) 本件考案の茶パックは、「表薄片Bの上方左右隅角部を三角形状に内方に向って折り重ねることによって開口部を狭窄するとともに、他方の裏薄片A側の折り畳み部を折り返して狭窄口と三角形左右隅角部をカバーすることによって開口部を密閉したので」(4欄13行ないし18行)、すなわち、本件考案の茶パックは構成要件(4)の構成をとったため、「袋内の内容物が内部の膨張によって隙間から流失したりする虞れはなく、殊に袋体が熱湯内に沈降してエキスの浸出を無駄なく行いうるの実益がある。」(4欄18行ないし21行)との作用効果を有する。

(二) 出願経過

(1) 本件考案(補正前)の出願

本件考案は、原告青木が昭和五八年三月八日出願したものであるが、出願当初の実用新案登録願添付の明細書及び図面(乙一・二)では、実用新案登録請求の範囲は、「耐水性薄片(1)を二つ折りに折畳んで一側面の一部を折返したカバー片(1)と共に左右両端縁にシール(2)を施して一方に開口部(3)を設け、該開口部(3)に対し前記カバー片(1)を反対側に反転させて被蓋することにより袋体に構成したパック」という内容であった。

したがって、本件考案の構成要件(4)の「袋体の薄片B側の上方左右隅角部C、Dを前記薄片B側の表面の内方に向って三角形状に折り重ねて前記開口部2を狭窄させた後、前記薄片Aの折り畳み部イを前記薄片B側に折り返して該開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被した」ことに関する構成は、出願当初の実用新案登録請求の範囲に全く記載されていないばかりか、考案の詳細な説明中にも記載がなかった。

(2) 拒絶理由通知、拒絶査定

本件出願に対し、特許庁審査官は、昭和六二年六月一六日拒絶理由通知書(乙三)を出した。

この拒絶理由通知書では、(a)実開昭五六-一〇三四六二号公報(乙四の1・2、以下「刊行物(a)」という。)と、(b)実開昭四七-九八一一号公報(乙五の1・2、以下「刊行物(b)」という。)が引用され、刊行物(a)記載のパック(浸出袋)の開口部に刊行物(b)記載の袋の開口部を応用して出願考案をなすことに格別の困難性は認められず、効果においても総和以上のものを奏するものとは認められず、右出願は進歩性がないから拒絶すべきものと認められた。

その後、本件出願は、昭和六三年七月五日特許庁審査官によって、前記拒絶理由によって拒絶査定がされた(乙六)。

(3) 拒絶査定不服審判、出願公告

<1> そこで、出願人は、昭和六三年八月二六日拒絶査定を不服とする審判請求を申し立て(乙七)、昭和六三年九月二四日付で理由補充書(乙八)と、明細書の全文及び図面を補正する手続補正書(乙九)を提出した。

出願人は、右手続補正書によって、「前記袋体の薄片B側の上方左右隅角部C、Dを前記薄片B側の表面の内方に向って三角形状に折り重ねて開口部2を狭窄させ」とか、「前記薄片Aの折り畳み部イを前記薄片B側に折り返して該開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被した」等の事項を、構成要件(これが本件構成要件(4)である。)として追加し、技術的範囲を狭く限定した。

<2> そして、出願人は、前記理由補充書の中で、本件考案と拒絶理由通知書で引用された刊行物(b)記載の考案との間には、次の(a)記載のとおりの構造上の差異があり、そのため、次の(b)記載のとおりその効果には顕著な差異があると主張した。

(a) 刊行物(b)記載の考案の開口部は、常に同一の開口部であって、袋部分の左右両側縁の接着部(2)より蓋片(7)の左右両側縁が接着線の延長線に突出しているのに対し、本件考案の開口部2は、上方左右隅角部C、Dを表薄片Bの表面の内方に向かって三角形状に折り重ねることによって狭窄されており、かつ、裏薄片Aの折り畳み部イを表薄片B側に折り返して前記開口部と三角形状隅角部を包被している。

(b) 刊行物(b)記載の考案においては、その開口部より幅の広い蓋片を狭少の開口部に差し込むことはできず、もし差し込むとすれば手間がかかり、蓋片に皺が生じて差し込むことになるため、係止袋でカバーしたとしても隙間から充填物が溢れ出るおそれがあるのに対し、本件考案においては、前記の構造により、狭窄された開口部が密閉され、かつ、カバーするのに操作が簡単で手間がかからず、内容物の流出もないという優れた効果を奏する。

<3> その結果、本件出願は、特許庁審判官(合議体)によって、平成元年一一月二八日出願公告の決定がなされ(乙一〇)、実用新案公報に掲載されるに至った。

(4) 登録異議の申立、登録異議の決定

右出願公告に対し、二件の登録異議の申立てがなされたが、特許庁審判官(合議体)によって、平成三年四月一一日、右各登録異議の申立はいずれも理由がないものとする決定がなされた(乙一一・一二)。

そして、右登録異議の決定においては、後に付加された構成要件(4)、すなわち、「袋体の上方左右隅角部を表薄片側の表面の内方に向かって三角形状に折り重ねて開口部を狭窄させた後、裏薄片の折り畳み部を表薄片側に折り返して開口部と三角形状隅角部を包被した」点が、本件考案の構成に欠くことのできない事項として指摘され、また、「刊行物(b)記載の考案は、係止袋を裏返して開口部を閉鎖する点で本件考案と軌を一にするが、本件考案の袋体の上方左右隅角部を表薄片側の表面の内方に向かって三角形状に折り重ねて開口部を狭窄させる点を欠如する。」ことが、刊行物(b)記載の考案と本件考案との相違点として指摘された。

(三) 考察

(1) 本件考案の明細書によると、本件考案の茶パックは、構成要件(4)の構成をとったことにより、顕著な作用効果(袋内の内容物が内部の膨張によって隙間から流失したりする虞れがなく、袋体が熱湯内に沈降してエキスの浸出を無駄なく行い得ること。)を奏するのであり、しかも、本件考案の出願経過によると、補正前の考案では、進歩性がないとの理由で一旦拒絶査定されたが、出願人が拒絶査定不服審判の段階において、出願当初の実用新案登録請求の範囲にはなかった構成要件(4)の構成を追加し、実用新案登録請求の範囲を減縮した上、本件考案は構成要件(4)の構成をとっているため、拒絶理由通知で指摘された刊行物(b)記載の考案にはない顕著な作用効果があると主張したため、最終的に本件考案の登録が認められたものである。

したがって、以上の明細書の記載及び出願経過に照らすと、構成要件(4)は、本件考案の構成に欠くことのできない重要な構成要素であると認められる。

(2) 原告らは、原告青木が本件考案の出願過程において、構成要件(4)を新たに主張した趣旨は、本件考案が構成要件(4)の構成を「取りうること」、及びその取りうることにより、本件考案が「操作が簡単で手間がかからず、密閉した袋体として内容物の流出もなく容易に使用しうる」独自の作用効果を有することを、本件考案の進歩性として主張したに過ぎず、構成要件(4)の持つ意義もこれを前提に考察すべきである旨主張する。

しかし、構成要件(4)が追加された趣旨が原告らの主張どおりであるとすると、構成要件(4)は、本件考案の有する独自の機能又は作用効果の説明にすぎず、本件考案の構成を積極的に限定するものではなかったことになる。そうであれば、原告青木は、構成要件(4)について、実用新案登録請求の範囲(実用新案登録を受けようとする考案の構成に欠くことのできない事項のみが記載されている。実用新案法五条五項二号参照。)に記載せずに、単に考案の詳細な説明欄において説明すれば足りたはずである。

しかも、本件考案の手続補正書(乙一〇)には、本件考案が構成要件(4)の構成を「とりうる」といった表現は一切されておらず、「本件考案の開口部2は、上方左右隅角部C、Dを表薄片Bの表面の内方に向かって三角形状に折り重ねることによって狭窄されており」と、明らかに本件考案の構成を限定する表現がなされており、本件考案の出願過程において、本件考案が構成要件(4)の構成を「取りうること」を追加して主張された事実は全くないのである。

本件考案の構成要件(4)(袋体 の開口部の具体的な閉塞方法)は、実用用新案登録請求の範囲に明記されている事項であり、これは開口部の閉塞後の構造を特定する重要なものであって、本件考案の構成に欠くことのできない事項である。本件考案の明細書の記載及び出願経過(前記(二)(3)<2>、(二)(4)二段目)に照らしても、本件考案の構成要件(4)は、本件考案が実用新案登録を受けるための必須不可欠の要素であり、原告らの前記主張は理由がない。

(3) 原告らは、本件考案に係る茶パックは、構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体であって、使用する際に、隅角部C、Dが薄片B側に三角形状に折り重なって開口部2を狭窄していると共に、形成された三角形状が薄片B側に折り返された折り畳み部によって包被されている構造を採択しうるように、全体が構成されている茶パックでさえあれば、実際の開口部の閉塞方法がどのような方法であろうと、全てその技術的範囲に含まれると主張する。

しかし、本件考案の構成要件(4)は、「<1>袋体の薄片B側の上方左右隅角部C、Dを前記薄片B側の表面の内方に向って三角形状に折り重ねて開口部2を狭窄させた後、<2>薄片Aの折り畳み部イを薄片B側に折り返して開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被した」と、袋体の開口部の閉塞方法を経時的かつ具体的に限定しているのであり、構成要件(4)は、本件考案に係る茶パックの開口部の閉塞後の構造について、右<1><2>の具体的な閉塞方法(手順)を実施した結果得られる構造に限定するものである。

したがって、本件考案に係る茶パックは、構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体であって、構成要件(4)の具体的な閉塞方法(手順)を実施した結果、得られる開口部の閉塞後の構造をした茶パックに限定されるものであり、構成要件(4)の閉塞方法によって開口部を閉塞することが可能な茶パックを全て含むものではない。

原告らの前記主張も理由がない。

(4) 更に、原告らは、原告らの前記(3)の解釈が正しい根拠として、本件考案の明細書には、本件考案の実施例として、別紙実用新案公報の第1図ないし第3図が記載されていること、すなわち、構成要件(4)の閉塞方法が施されていない茶パックが、本件考案の実施例として記載されていることからも、裏付けられると主張する。

しかし、本件考案の明細書には、第1図として本考案有底袋体の背面図(4欄23行)が、第2図として本考案有底袋体の正面図(4欄23・24行)が、第3図として第2図X-X線における断面図(4欄24・25行)が、第4図として本考案有底袋体の左右隅角部を折り畳んで折り畳か部でカバーした構成を示す一部切欠正面図(4欄25~27行)が、第5図として第4図Y-Y線における断面図(4欄27・28行)が記載されており、、明細書の第1図ないし第3図は、本件考案の構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体を説明するための図面であり、明細書の第4図・第5図は、本件考案の構成要件(4)を説明するための図面である。

したがって、明細書は、第1図ないし第5図でもって、本件考案の構成要件(1)ないし(4)を説明しているのであり、第1図ないし第3図に記載された有底袋体でさえあれば、その開口部の閉塞方法がどのようなものであっても、全て本件考案の実施品であることを前提として、明細書に第1図ないし第3図が記載されているものではない。

原告らの前記主張も理由がない。

(5) 以上の次第で、本件考案の構成要件(4)は、本件考案に必須不可決な有底袋体の開口部を閉塞する方法を意図するものと認められ、この閉塞方法をもって茶パックの構造を間接的に特定するものと解すべきである。

したがって、本件考案に係る茶パックは、構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体であって、構成要件(4)の閉塞方法によって開口部が閉塞される構造の茶パックに限定するものと解するのが相当である。

3  イ号・ロ号物件が本件考案を侵害するか否か

(一) 前記2で検討したところによると、本件考案に係る茶パックは、構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体であって、構成要件(4)の閉塞方法によって開口部が閉塞される構造の茶パックであると認められるので、かかる観点から、イ号・ロ号物件が本件考案を侵害するか否かについて、以下考察する。

(二) 証拠(甲八ないし一五の各1・2)によると、イ号・ロ号物件の商品パッケージには、イ号・ロ号物件の使用方法として、「<1>パックの中に茶葉等を入れます。<2>→の部分を反対側に折り返します。<3>できあがり状態。」、あるいは、「<1>パックの中に茶葉等を入れます。<2>→の部分を反対側に折り返します。<3>折り返した両端部分が直角になる様に整えます。<4>できあがり状態。」(イ号・ロ号物件の種類により、「茶葉」の部分が「紅茶」、「だし」又は「薬草」となる。)と指示説明されていることが認められる。

したがって、イ号.ロ号物件の開口部の閉塞方法は、いずれも重畳部3を薄片B側に折り返すのみであって、上方左右隅角部C、Dを薄片B側の表面内方に向かって三角形状に折り重ねて開口部Eを狭窄させるという、構成要件(4)前段の閉塞方法がとられていないことが認められる。そして、イ号・ロ号物件の構造(検甲三・四)に照らすと、このような閉塞方法により、イ号・ロ号物件の開口部を閉塞することは物理的に可能であり、かつ操作方法として何らの困難性も伴わないことが認められる。

(三) この点に関し、原告らは、前記<2>の操作を行えば、イ号・ロ号物件の隅角部C、Dは、イ号・ロ号物件の各構造上不可避的に三角形状に折り重ねられ、本件考案と同じ構成を持つ物件となる旨主張する。

確かに、証拠(検甲三・四)によると、イ号・ロ号物件の重畳部3を薄片B側に折り返して開口部を包被すると、上方左右隅角部C、Dが薄片B側に表面内方に向かって若干三角形状に折り重なり、その結果、開口部が若干狭窄されたかの如き状態になることが認められる(ただし、後記二の2で認定するように、開口部が若干狭窄されたかの如き状態にすらならない場合もある)。

しかし、本件考案の茶パックは、前示した構成要件(4)の持つ意義から明らかなように、積極的に、上方左右隅角部C、Dを薄片B側に表面内方に向かって三角形状に折り重ね、その後、薄片Aの折り畳み部イを薄片B側に折り返して開口部を包被することにより、茶パックの開口部を必ず確実にかつ顕著に狭窄させる形状・構造に関するものであり、このことによって、「袋内の内容物が内部の膨張によって隙間から流失したりする虞れはなく、殊に袋体が熱湯内に沈降してエキスの浸出を無駄なく行いうるの実益がある。」(明細書の4欄18行ないし21行)との作用効果を奏するものである。

しかも、出願人は、出願過程において、それほど開口部が狭窄されていない茶パックを示す出願当初の第4図(乙二)を、開口部を顕著に狭窄させた茶パックを示す現在の第4図(乙九、甲一)に訂正した上、出願当初の実用新案登録請求の範囲にはなかった構成要件(4)記載の開口部の閉塞方法を追加し、これによって、前述のような顕著な作用効果を奏することを強調した(乙八・九)結果、初めて本件考案の進歩性が認められて、実用新案登録がなされるに至った(乙一〇ないし一二)のであり、以上の経過については、本件考案の技術的範囲を考察するに際して、充分に考慮する必要がある。

したがって、本件考案に係る茶パックは、積極的に、上方左右隅角部C、Dを薄片B側に表面内方に向かって三角形状に折り重ね、その後、薄片Aの折り畳み部イを薄片B側に折り返して開口部を包被することによって、茶パックの開口部を必ず確実にかつ顕著に狭窄させた形状・構造を持つ茶パックでなければならず、イ号・ロ号物件のように、重畳部3を薄片B側に折り返して開口部を包被した結果、上方左右隅角部C、Dが薄片B側の表面内方に向かって若干三角形状に折り重なり、開口部が若干狭窄されたかの如き状態になっている茶パック(時には、開口部が若干狭窄されたかの如き状態にすらならない場合もある茶パック。)は、本件考案の技術的範囲に含まれないものである。

(四) 以上の次第で、イ号・ロ号物件における茶パック等の開口部の閉塞方法と、本件考案に係る茶パックの開口部の閉塞方法は異なるものであり、このように異なった閉塞方法により開口部が閉塞される結果、イ号・ロ号物件の茶パック等と本件考案の茶パックとでは、開口部の閉塞後の構造もまた異なっている(本件考案の茶パックは、開口部が必ず確実にかつ顕著に狭窄された形状・構造を持ったものでなければならないのに、イ号・ロ号物件の茶パック等は、開口部が若干狭窄されたかの如き状態になっているに過ぎず、時には開口部が若干狭窄されたかの如き状態にすらならない場合もある。)ことが認められるので、イ号・ロ号物件は、いずれも本件考案の構成要件(4)を充足せず、本件考案を侵害しない。

二  間接侵害について

1  イ号・ロ号物件は、上方左右隅角部C、Dを薄片B側の表面内方に向かって三角形状に折り重ねる操作はせず、単に重畳部3を薄片B側に折り返す操作のみで開口部Eを包被するものであり、イ号・ロ号物件は、本件考案の構成要件(4)前段の操作をする必要のない構造となっている。

このように、イ号・ロ号物件と本件考案に係る茶パックとでは、異なった閉塞方法により開口部が閉塞される結果、開口部の閉塞後の構造もまた異なっている。

したがって、イ号・ロ号物件は、本件考案に係る茶パックの製造にのみ使用するものではないから、被告がイ号・ロ号物件を製造・販売する行為は、本件考案に対する間接侵害(実用新案法二八条)をも構成しない。

2  この点、原告らは、イ号・ロ号物件は、その構造上重畳部3を薄片B側に折り返す動作をする場合、不可避的に上方左右隅角部C、Dが薄片B側の表面内方に向かって折り重ねられることとなるので、イ号・ロ号物件は、本件考案に係る茶パックの製造にのみ使用される物件である旨主張する。

しかし、イ号・ロ号物件の重畳部3の下に左右の親指を挿入して薄片B側に折り返す際に、両方の人指し指を上方左右隅角部C、Dにそれぞれあてがうことになるが、その際に原告が主張するように、必ず上方左右隅角部C、Dが三角形状に折り重ねられるとは限らない。証拠(甲二九、検甲三・四、検証の結果)によると、左右の親指を重畳部3の奥まで挿入し、左右の融着部に押しつけるようにしながら、重畳部3を薄片B側に折り返せば、開口部が若干狭窄されたかの如き状態にすらならないことが、しばしば発生することが認められる。そして、このような方法でイ号・ロ号物件の重畳部3を折り返す場合にも、何ら動作に困難性はなく、また開口部が閉塞されている以上、お茶パック等としての機能に何ら問題のないことも明らかに認められる。

原告らは、イ号・ロ号物件の各使用説明においては、左右の親指を重畳部3の下に八の字型に浅く挿入するものとされている旨主張して、イ号・ロ号物件の使用方法はこれに限定されているかのように主張する。しかし、右各使用方法の説明においては、前示のとおり、「→の部分を反対側に折り返します。」としか記載されておらず、親指の挿入方法などは一切限定されていない。したがって、右各図面は、単にイ号・ロ号物件のどの部分に親指を挿入するかを分かりやすく図示するものとしか考えられず、親指の挿入方法までを限定する趣旨で図示しているものとは認められない。

結局、イ号・ロ号物件は、開口部の閉塞方法について、本件考案の構成要件(4)のような限定はないのであり、検証結果から明らかなように、その閉塞方法には各人各様のやり方があると認められる。したがって、イ号・ロ号物件は、本件考案に係る茶パックの製造にのみ使用されるものとは認められず、原告らの主張は理由がない。

第四  結論

以上によると、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの本訴請求はいずれも理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 高橋正 裁判官 橋本佳多子)

第一物件目録

イ号物件(紅茶パック)の説明書

一 図面の説明

第1図はイ号物件の正面図、第2図はイ号物件の背面図、第3図は第1図のα-α線断面図

二 イ号物件の説明

(1) イ号物件は第1ないし第3図に示す紅茶パックであって、全体が耐溶性と浸出性を有する不織布の薄片で構成されている。

(2) 長方形の薄片1は、折り線2に沿って二つ折りされている。

(3) 薄片1は、その短辺の一端が、折り線4に沿って、背面側に折り畳まれて重畳部3が形成されている。

(4) 薄片1は、その短辺の他端が、折り線6に沿って内側に折り畳まれて重畳部5が形成されている。

(5) 折り線4、6は同一線上で重なり、イ号物件の上端縁となっている。

(6) イ号物件は、その両側端において、端縁部より内側に寄せて形成した融着部7、8によって薄片1の重ね合わせ部分が融着され、背面側の薄片Aと正面側の薄片Bとによって開口部を有する袋体を構成し、その袋体は、上方の左右に隅角部C、Dを有している。

(7) 糸11が重畳部3と薄片Aとの間に案内され、先端が融着部8に固定されている。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第二物件目録

ロ号物件(お茶パック、だしパック、薬草パック)の説明書

一 図面の説明

第1図はロ号物件の正面図、第2図はロ号物件の背面図、第3図は第1図のα-α線断面図

二 ロ号物件の説明

(1) ロ号物件は第1ないし第3図に示すお茶パック、だしパック又は薬草パックであって、全体が耐溶性と浸出性を有する不織布の薄片で構成されている。

(2) 長方形の薄片1は、折り線2に沿って二つ折りされている。

(3) 薄片1は、その短辺の一端が、折り線4に沿って、背面側に折り畳まれて重畳部3が形成されている。

(4) 薄片1は、その短辺の他端が、折り線6に沿って内側に折り畳まれて重畳部5が形成されている。

(5) 折り線4、6は同一線上で重なり、ロ号物件の上端縁となっている。

(6) ロ号物件は、その両側端において、端縁部より内側に寄せて形成した融着部7、8によって薄片1の重ね合わせ部分が融着され、背面側の薄片Aと正面側の薄片Bとによって開口部を有する袋体を構成し、その袋体は、上方の左右に隅角部C、Dを有している。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

<>日本国特許庁(JP) <>実用出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 平2-11330

<51>Int.Cl. B 65 D 77/14 識別記号 庁内整理番号 7127-3E <21><44>公告 平成2年(1990)3月20日

<>考案の名称 茶パツク

審判 昭63-15375 <21>実願 昭58-33899 <3>公開 昭59-138568

<22>出願 昭58(1933)3月8日 <43>昭59(1984)9月17日

<>考案者 青木常雄 愛媛県伊于三島市寒川町4227番地

<71>出願人 青木常雄 愛媛県伊于三島市寒川町4227番地

<74>代理人 弁理士 長尾良吉

審判の合 審判長 山木介 審判官 水谷 審判官 松福三郎

<56>参考文献 実開昭47-981(JP、U) 実開昭56-103462(JP、U)

<57>実用新案登録請求の範囲

耐溶性と提出性とを有する方形薄片1の一辺を裏面側に折り畳んで折り畳み部イを、相対する一辺を表面側に折り畳んで折り畳み部ロを設け、各々の折り線ハ、ニが同一線上で上端線と重なるように、前記折り畳み部イを外側に、また、折り畳み部ロが内側になるように該薄片1を二つ折りして一方を裏薄片A、他方を裏薄片Bとし、前記両薄片A、Bの両側端を融着3、3して上方に開口部2を有する有底袋体を形成し、前記袋体の薄片B側の上方左右隅角部C、Dを前記薄片B側の裏面の内方に向つて三角形状に折り重ねて前記開口部2を狭窄させた後、前記薄片Aの折り畳み部イを前記「薄片B側に折り返しで該開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被したことを特徴とする茶パツク.

考案の詳細な説明

上の利用分野

この考案は、茶、紅茶、その他末導を軽便に袋入れして使用する茶パツクに関するものである.

従来の技術

従来この種の器具としてはビン、急須、ヤカン等の熱湯内に茶を投入して提出させている方法が一般的である.またし袋(実開昭56-103462)が提案されている.その他1個のパツク入茶等が限売されている.

考案が解決しようとする

従来の技術で述べたうち前者の茶しては茶殻を容器から取り出すのに手敗かかるだけでなく、便用中茶の微粉末が流出する問題点がある.

また、実開昭56-103462号では袋体に浮体を外周に一体的にしているので容器内の熱湯のに応じて適応しないという問題点がある.

また、パツク入茶では人数に制限されるという問題点もある.

そこで本考案は、従来の技術における問題点にみてなされたものであり、もの目的とするとこるは不様布等の如き薄片にて袋体を形成し、該袋体の開口部に人数に応じた茶類を入れてその入れ加減もできると共にカバー片で開口部を閉塞すべくカバーし、茶袋として外観、体裁も優れ、使用が簡単な茶パツクを提供しようとするものである.

課題を解決するための手段

上記目的を達成するために、本考案における茶パツクは、耐溶性と浸出性とを有す方形薄片を二つ折りに折り畳んで、一方の薄片に形成した一辺の折り畳み部を外側に、他辺の薄片に形成された他辺の折り畳み部が内側になるように重ね、そして両薄片の両側端を融着して上方に開口部を有する有底袋体を形成し、該袋体において、内側に折り畳み部のある薄片の上方左右隅角部を三角形状に裏面内に向つて折り重ねて的記開口部を狭窄した後、外側に折り畳んだ折り畳み部を反対側に折り返して開口部と三角形状隅角部とを包被してなるしのである.

作用

茶パツクは、その開口部に人数に応じた茶、紅茶、或はだし粉末等を入れて、開口部を狭窄した後に折り畳み部でカバーして容器の熱湯内に投入してパツクより提出させるものである.

そして提出した後はパツクを容器から取り出して棄てればよい.

実施例

実施について図面を参照して説明する.

第1図~第5図において、薄片1は耐溶性と浸出性とを有するものであつて、例えば不織布、強紙、薄布類等を使用して方形に形成する.そして方形薄片1の一辺を裏面側に折り畳んで折り畳み部イを形成し、相対する一辺を表面側に折り畳んで折り畳み部口を形成する.この折り畳み部イ、ロの各折り線ハ、ニが同一線上で上端線となつて重なるように、前記折り畳み部イを外側に、また、折り畳み部ロが内側になるように前記薄片1を二つ折りとして、一方の裏薄片Aと他方の表薄片Bとの両面を形成し、前記両薄片A、Bの両側端を融着3して上方に開口部2を有する有底袋体を構成する.前記袋体の表簿片B側の上方左右隅角部C、Dを前記薄片B側の表面の内方に向つて三角形状に折り重ねて前記開口部2を狭窄した後、前記裏薄片Aの折り畳み部イを前記表簿片B側に折り返し、該開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被して形成されている.

考案の効果

本考案は上述のように構成されているので、次に記載する効果を奏する.

耐溶性と浸出性とを有する方形薄片の一辺を裏面側に、相対する他辺を表面側に折り畳んで夫々に折り畳み部を設け、各々の折り線が同一線上で上端縁となつて重なるように、裏面側の折り畳み部が外側に、また、裏面側の折り畳み部が内側になるように前記薄片を二つ折りして形成された両面の薄片の両側端を融着して上方に開口部を有する有底袋体を構成したので、人数に応じて開口部から袋内に茶の使用量の入れ加減を任意に行うことが容易にできる.また、表薄片Bの上方左右隅角部を三角形状に内方に向つて折り重ねることによつて開口部を狭窄すると共に他方の裏薄片A側の折り畳み部を折り返して狭窄口と三角形左右隅角部をカバーすることによつて開口部を密閉したので袋内の内容物が内部の膨張によつて隙間から流出したりする虞れはなく、殊に袋体が熱湯内に沈降してエキスの浸出を無駄なく行いうるの実益がある.

図面の簡単な説明

第1図は本考案有底袋体の背面図、第2図は本考案同上の正面図、第3図は第2図X-X線における断面図、第4図は本考案有底袋体の左右隅角部を折り畳んで折り畳み部でカバーした構成を示す一部切欠正面図、第5図は第4図Y-Y線における断面図.

1……薄片、2……開口部、3……融着.

第1図

<省略>

実公 平2-11330

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4図

<省略>

第5図

<省略>

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